Case studies
Samsonite Europe NV.

Samsonite様
サプライチェーンの透明化で実現するサステナブル旅行用品の未来

サムソナイトは、弊社とのパートナーシップを通じて、DPPの導入により透明性への取り組みをさらに強化しています。本記事では、両社がどのように協働し、旅行用品業界においてトレーサビリティ基盤を構築したか、そしてその具体的な成果についてご紹介します。

結果

サプライヤー27 社

プロジェクトに参画し、プロセスの各工程におけるトレーサビリティを確保

100% 再生原料の追跡

サプライチェーン全体を可視化し、原材料の供給元まで追跡できる仕組みを実現

100 バッチ(ロット)

の素材を追跡

企業名
Samsonite Europe NV.
‍業種
旅行用品
従業員数
約10,000人
場所
ベルギー
タイムライン
3年
導入製品
製品トレーサビリティ、
デジタルプロダクトパスポート(DPP)

サムソナイトは、旅行用スーツケース業界をよりサステナブルな未来へ導くことを目標としています。トレーサビリティは、サステナビリティ施策を強化し、検証済みのデータに基づいて自信を持って主張を裏付けるための重要な要素です。サーキュライズとの協業により、サプライチェーンの完全な透明性に向けた一歩を踏み出し、より責任ある生産と消費の基盤を築いています。

Pauline Koslowski
VP Research, Innovation & Development at Samsonite

Circulariseは、オランダ発のサプライチェーン・トレーサビリティ・プラットフォームで、企業のレジリエンス向上、排出量削減、新たなビジネス価値の創出を支援しています。2016年の創業以来、原料レベルから最終製品に至るまで、全体を通してデータを収集・可視化する、安全な製品トレーサビリティを実現してきました。当社のソリューションは、デジタルプロダクトパスポート(DPP)の導入を支援するとともに、ESPR(エコデザイン製品規則)、RED III(再生可能エネルギー指令 第3版)、欧州バッテリー規則といった各種規制への対応をスムーズにします。サムソナイト、エアバスなどのグローバル企業からも信頼を得ており、Circularise の特許技術によって機密性の高いデータを守りながら、監査対応可能なインサイトをご提供します。

1910年に創業したサムソナイトは、革新的かつ高品質な旅行用品を提供するグローバルリーダーです。サステナビリティとデザイン性を重視した製品開発を行い、世界100か国以上で事業を展開しています。

Taking responsibility

サステナビリティを、データで裏付ける

サムソナイトは100年以上にわたり、耐久性が高く高品質な旅行用スーツケースを提供し、旅行の革新をリードしてきました。しかし、現代においては耐久性だけでは十分ではありません。規制の強化や消費者のサステナブル製品への期待が高まる中、サムソナイトは、製造過程における責任を明確に示す取り組みを強化し、スーツケースが引き続き高い耐久性とサステナビリティの基準を満たすことを目指しています。

この目的を達成するため、サムソナイトはサーキュライズの製品トレーサビリティプラットフォームを導入しました。この協業により、サムソナイトはサプライチェーンに関する理解を大幅に深め、データに裏付けられたサステナビリティの取り組みを顧客に提供できる体制を整えました。

picking a solution

Circularise導入の背景

環境意識がかつてないほど高まる現代において、企業はもはや抽象的なサステナビリティの約束だけでは信頼を得ることができません。消費者、規制当局、そして投資家はより踏み込んだ問いを投げかけています。──素材はどこから来ているのか。それは本当にサステナブルなのか。企業はその主張を証明できるのか。

サムソナイトにとって、これらの問いは企業戦略の中核となりました。同社はかねてより、サステナブル素材の活用、循環型ものづくり、そして責任ある調達に注力してきました。しかし、グローバル規制が進化を続ける中で、トレーサビリティは「目標」ではなく「必須要件」へと変化しました。

業界のリーダーとして模範を示すために、サムソナイトには、サプライチェーン全体を通じて素材を追跡できるシステムが求められました。それにより、欧州規制への確実な対応を実現するとともに、消費者に対しても高い透明性を提供することを目指したのです。

私たちがトレーサビリティに注力している理由は、新たなサステナビリティ施策におけるメッセージをより強固なものにするためです。お客様に対して、裏付けのある情報を提供し、自信を持って主張できるようにしたいと考えています。

Katrijn Goethals
Sustainability Coordinator, Samsonite

サーキュライズとのパートナーシップにより、サムソナイトはこれらの課題を満たすだけでなく、サプライヤーの機密保持にも配慮したソリューションを見出しました。
サーキュライズの「スマートクエスチョニング技術」は、企業が必要なサステナビリティおよびコンプライアンス関連のデータのみを共有しつつ、機密性の高い事業情報を保護できる仕組みを提供します。これにより、トレーサビリティを実践的かつ拡張可能な形で実現することが可能となりました。

サーキュライズとの協働を通じ、サムソナイトは以下の目標を掲げています。

  • 検証済みデータと証拠に基づき、サステナビリティに関するメッセージの信頼性を強化すること。
  • リサイクル素材の追跡や主要サプライヤーの参画を通じて、サプライチェーンのトレーサビリティに関する実践的な知見を蓄積すること。
  • DPPに対する市場の反応を検証し、消費者が価値を感じる情報を把握すること。
  • 本フェーズで得た知見をもとに、全製品へのDPPの本格展開に備えること。
collaboration with circularise

小規模からのスタート、2022年にパイロットプロジェクトを開始

2022年より、DPPのパイロットプロジェクトを開始し、サプライチェーン全体の透明性に向けた第一歩を踏み出しました。本プロジェクトでは、ポリマーの主要なサプライヤーであるリオンデルバゼル社のリサイクル素材を用いた「マグナムエコスピナー」スーツケースに焦点を当てました。

この取り組みにより、サムソナイトは主要なサステナビリティデータの追跡、使用素材の検証、そしてDPPを実際に運用する中での実務的な知見を得ることができました。

パイロットプロジェクトの結果は、非常に好意的に受け止められました。グローバルな業界イベントであるK展(ドイツ開催)で成果を発表したところ、消費者だけでなく業界リーダーも、より高い透明性を求めていることが明らかになりました。

この第一フェーズの勢いを受け、サムソナイトは2023年12月に、より大規模な第2フェーズを開始しました。今回は、ベルギーとハンガリーで製造された2つの追加スーツケースモデルを対象に選び、地域ごとのサプライチェーンの複雑性をさらに詳しく検証しました。本フェーズでは、外装に使用されるリサイクル素材だけでなく、アジアおよびヨーロッパのサプライヤーから調達される各種部品も追跡対象としています。

この取り組みでは、部品メーカーから原材料提供者に至るまで、サプライヤーとのより緊密な協働が求められ、プロセスのすべての段階で追跡可能性を確保しました。その結果、サムソナイトは製品全体の86.7%のトレーサビリティを達成し、リサイクル素材については100%の原料が供給源まで追跡可能となりました。また、15社のサプライヤーと連携して必要なデータを収集し、今後施行される欧州規制に対応するためのサプライチェーンの透明性確保に向けた重要なステップを踏むことができました。

これらの初期パイロットでは、顧客向けの情報発信よりも、サプライチェーン全体のトレーサビリティにおける課題の把握と重要データポイントの特定に重点が置かれました。

この取り組みの一環として、サムソナイトはDPPを導入しました。これにより、素材の調達先、リサイクル含有率、規制遵守状況などの検証済みデータを提供できるようになりました。これらのパスポートは現時点で一般公開されていませんが、今回のパイロットにより、トレーサビリティを拡張し、次のパブリックなプロジェクトをサーキュライズと共に展開するための拡張性のある枠組みが確立されました。

circular suitcases

DPP搭載のサーキュラーモデルをアースデイに発売

2025年のアースデイにあわせて、サムソナイトは2つの画期的なサーキュラーコレクションを発表しました。ESSENS™ Circular と PROXIS™ Circular であり、いずれもサーキュライズのDPPにより運用されています。

これらのローンチは、サムソナイトのサステナビリティ推進における大きな前進を示すもので、革新的な素材、検証済みデータ、サプライチェーンの透明性を組み合わせた取り組みとなりました。サーキュライズは、約30社の異なるサプライヤーからのデータの取り込みと管理を支援し、大規模な物流およびコミュニケーション上の課題を克服しました。

同プラットフォームにより、素材の調達先を明確に把握できるとともに、規制遵守を支援し、よりサステナブルなソリューションへの移行を加速させることが可能となりました。

ESSENS™ Circular:リサイクル素材の最大活用

ESSENS™ Circular スーツケースは、リサイクル素材の含有率向上に重点を置いて開発されました。サイズは SP55 と SP75 の2種類が用意されています。特に ESSENS™ Circular SP75 は、リサイクル素材の割合を 50%から70% に引き上げています。

ESSENS™ Circular の開発過程は以下のステップで構成されています。

  1. 古いスーツケースの解体
    Aarova社にて、使用済みスーツケースを分解。
  2. 外装シェルの破砕
    Tivaco社にて、スーツケースの外装を粉砕。
  3. 素材のブレンド
    リオンデルバゼル社にて、粉砕したスーツケース部品と消費者由来の廃棄物を混合。
  4. 新しいスーツケースシェルの製造
    サムソナイトが、高リサイクル含有率のブレンド材を用いて新しいシェルを製造。

この全サプライチェーンはサーキュライズを通じて追跡され、回収から製品完成までの素材の透明性が確保されています。

PROXIS™ Circular:バイオ循環素材の導入

PROXIS™ Circular SP75 は、リサイクル素材とバイオ循環素材を合わせて65% まで高めており、サムソナイトがスーツケース製造において バイオ循環素材を初めて採用 した製品となります。

PROXIS™ Circular の主な革新ポイント

  • 使用済み食用油のポリマー素材への転換
    リオンデルバゼル社が、使用済み食用油をマスバランス方式によりポリマーグレードの素材に変換。
  • バイオ循環フィルムの製造
    この素材を用いて、バイオ循環フィルムを作成。
  • ROXKIN™ シェルの製造
    サムソナイトは、このフィルムを用いてスーツケースの ROXKIN™ シェルを製造。
  • サムソナイト初のバイオ循環素材採用製品
    本製品は、シェルにバイオ循環素材を採用したサムソナイト初のスーツケースであり、ISCC PLUS 認証を取得して素材のバイオ循環由来を証明。
results

プロジェクトの成果と主要数値

  • 生産スーツケース台数:8,000台
  • 両コレクション合計のSKU数:5
  • 関与したサプライヤー数:27社
  • 収集データポイント:約3,000件
  • 追跡された素材バッチ数:100
  • リサイクル素材のサプライチェーン全体での追跡率:100%

    DPPの取り組みでは、各スーツケースにおけるリサイクルおよびバイオ循環素材の割合、使用素材の種類、カーボンフットプリントを明確に示すことに重点を置いています。

サムソナイトとの取り組みは、通常のビジネスとは一線を画しています。素材の調達先や製造過程について、ここまで高いレベルでの透明性が示されることは稀です。一般的には、サプライヤーが詳細を開示する義務はほとんどなく、多くの場合、彼ら自身も情報を持っていないことがあります。サムソナイトの透明性への取り組みは、業界における新たな基準を打ち立てるものです。

Silvia Cosentino
Integration Lead, Circularise

この透明性の推進は、サムソナイトだけにメリットをもたらしたわけではありません。本プロジェクトに参加した多くのサプライヤーは、自社のデータ収集プロセスを改善する機会と捉え、サステナビリティやトレーサビリティの重要性がますます高まる中での業務改善に取り組みました。

現在、各スーツケースに付与されたQRコードを通じてアクセスできるDPPは、消費者に製造過程の詳細な情報を提供します。この革新は、消費者の信頼向上につながるだけでなく、サムソナイトが旅行用品業界におけるサーキュラーエコノミーへの積極的な貢献者であることを示す取り組みとなっています。

supply chain complexity

サプライチェーン・トレーサビリティにおける課題の克服

成果を上げる一方で、完全なトレーサビリティの実現にはいくつかの課題もありました。最大のハードルの一つは、サプライヤーの参加を確保することでした。多くのサプライヤーは製品トレーサビリティシステムに不慣れで、プロジェクトの価値やサーキュライズのプラットフォームの使い方を理解していただくためには、トレーニングが必要でした。

さらに、言語の壁も複雑さを増す要因となり、多言語サポートや視覚的に分かりやすい指示を提供することで、多様なサプライヤーネットワーク全体でスムーズに導入できるよう対応しました。

十分な情報を収集する一方で、サプライヤーに過剰な負担をかけない適切なバランスを見つける必要がありました。中には期待以上の努力を払い、データの収集や検証に真剣に取り組むサプライヤーもいました。時間が経つにつれて、透明性とサステナビリティの重要性をより深く理解してくれるようになっています。

Katrijn Goethals
Sustainability Coordinator, Samsonite

欧州のサプライヤーと連携する場合は特に、敏感な情報の開示に慎重であることが多いため、トレーサビリティプロジェクトには特有の課題が生じます。サーキュライズの柔軟なデータ共有アプローチは、こうした懸念を軽減するうえで役立ちました。

同プラットフォームでは、企業が開示する情報の範囲を自らコントロールできるため、規制遵守を維持しつつ、必要に応じて機密性を確保することが可能となります。

a new norm

透明性による将来への備え

今回の協業による成果は、サムソナイトのサステナブルなサプライチェーン管理におけるリーダーとしての地位をさらに強化しましたが、これはあくまで第一歩に過ぎません。サプライチェーンのトレーサビリティが業界標準となる中で、デジタルソリューションを積極的に導入する企業は、競争優位性を獲得することができます。

サムソナイトとサーキュライズの取り組みは、事業の将来性を確保するだけでなく、透明性が実現可能であり、拡張可能で、企業・サプライヤー・消費者すべてに利益をもたらすことを示すモデルとなっています。

DPPの複雑さは、実際に取り組んでみて初めて本当に理解できます。サムソナイトにとって、これはまだ始まりに過ぎません。

Katrijn Goethals
Sustainability Coordinator, Samsonite

世界各国の規制が進化し、消費者の期待が高まる中、サムソナイトとサーキュライズの取り組みは、旅行用品業界における新たなベンチマークを築いています。化学、ファッション、電子機器、自動車などの各業界でも、同様のトレーサビリティソリューションの導入が注目され始めています。

ぜひ、第一歩を踏み出しましょう。

トレーサビリティシステムに関するご質問

トレーサビリティがコンプライアンス遵守、競争力の強化、そして循環型ビジネスの拡大にどのように役立つか、ぜひ弊社チームまでご相談ください。

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